
皆さん、こんにちは。船井総研ホールディングスの山本翼です。
2026年5月17日、船井総研グループ東京本社(東京ミッドタウン八重洲35階)で、AI経営支援エージェント開発ハッカソンを開催しました。
テーマは「未来の経営をアップデートせよ」。中堅・中小企業の経営現場で実際に起きている課題をもとに、コンサルタント・エンジニア・学生の混成チームが、Google AI Studioを使ってアイデア出しから動くアプリの実装・発表までを1日で駆け抜けるプログラムです。当日の講義内容と、5チームによる成果発表の様子をレポートします。
この記事でわかること
- 「何を作るか」より「なぜ作るか」を重視するハッカソンの設計思想
- 午前の講義で語られた「答えの価値は下がり、問いの価値は上がる」というメッセージ
- 5チームが実装した経営支援AIアプリと、優勝チームの着眼点

開催概要
| 開催日時 | 2026年5月17日(日)10:00〜18:00 |
|---|---|
| 会場 | 船井総研グループ東京本社(東京ミッドタウン八重洲 八重洲セントラルタワー35階) |
| 対象 | 学生16名 |
| 形式 | チーム開発形式(コンサルタント×エンジニア×学生の混成チーム) |
| 使用ツール | Google AI Studioを中心に、各種AIツールの利用は自由 |
このハッカソンが大切にしたこと──「なぜ作るのか」から始める
ハッカソンと聞くと、技術力を競うイベントを想像するかもしれません。しかしこのハッカソンで各チームに求められたのは、「どんな経営者のために?」「なぜその機能?」という理由をチームで徹底的に考え抜くことでした。
題材となったのは、中堅・中小企業の経営現場から抽出されたリアルな課題です。発表会でも「何を作ったか」だけでなく「なぜ作ったのか」「どんな価値があるのか」が評価の中心に置かれ、審査はビジネスインパクト・技術的完成度・革新性とUXという観点で行われました。
チーム編成にも意図があります。現場の一次情報とビジネスロジックを持つコンサルタント、アーキテクチャ設計と実装技術を持つエンジニア、既存の常識にとらわれないアイデアを持つ学生。この3者が組むことで、机上の空論で終わらないソリューションを1日で形にする──それがこのハッカソンの設計思想です。
午前:2つの講義──AI時代に価値が上がる能力とは
講義①「AI時代をどう生きるか」
最初の講義では、いまAIの世界で何が起きているのかが紹介されました。講義で示されたのは、1日に生成されるAI論文はおよそ3,000本、AIが1日に書くコードは1億行、アプリ1本の開発時間は約17分という試算です。産業革命は蒸気機関の「音」で、電気革命は電灯の「光」で誰もが変化を感じられたのに対し、AI革命は音もなく光もなく、静かにすでに始まっている──そんな導入から講義は始まりました。
講義の核心は、「答えの価値は下がる。問いの価値は上がる」というメッセージです。定型レポートの作成、データ集計、コード生成、リサーチといった「答えを出す」仕事はAIが得意になっていく。一方で、何を問題と定義するか、現状(As Is)とあるべき姿(To Be)のギャップをどう言語化するかは、依然として人間の仕事です。これはコンサルタントが日常的に使っている問題定義の型そのものであり、AI時代にこそコンサルティングの武器が鍵になる、という内容でした。
また、AIの最大の弱点であるハルシネーション(もっともらしい誤り)にも触れ、「AIの回答をそのまま使わない」「重要な情報は必ず人間が確認する」「AIはたたき台として活用する」という使い方の原則が共有されました。この視点は、午後の開発で複数のチームの設計思想に反映されることになります。
講義②「Google AI Studio講座」
続く講義では、当日のメイン開発環境であるGoogle AI Studioの使い方がハンズオン形式で解説されました。Google AI Studioは、Geminiを使ったアプリをブラウザだけで開発できるGoogleの公式プラットフォームです。Playgroundでプロンプトを試し、Get codeでコードに変換し、Build画面でアプリとして構築する──試したプロンプトがそのままアプリになるという最短ルートが、実演を交えて紹介されました。
講師からは、無料枠で入力したデータはモデル改善に使われる可能性があるため機密情報・個人情報は入力しないこと、という実務上の注意点も共有され、参加者はそのまま午後の開発に入っていきました。

5つの開発テーマ──経営現場のリアルな悩みから
チームが選んだ課題は、コンサルティングの現場で実際に交わされている経営者の悩みをもとに、5つのテーマとして事前に整理されたものです。
| テーマ | 課題領域の例 |
|---|---|
| Webマーケティング | 広告費の高騰、AI生成コンテンツ時代の集客 |
| 人事・組織開発 | 採用難、定着、スキル可視化と教育 |
| 経営戦略・財務 | データに基づく事業計画・収支シミュレーション |
| 法規制・新規事業 | 制度・法改正の頻繁な変化への対応 |
| オペレーション・UX | アナログな業務フローの自動化と顧客体験の改善 |
午後は約4時間の開発タイム。各チームは課題選定から要件定義、プロンプト設計、実装、発表資料づくりまでを一気に進めました。

成果発表──5チームが実装した経営支援AIアプリ
発表は各チーム10分。うち3分以上はGoogle AI Studioのプレビュー画面での実機デモに充てられ、船井総研グループ社員以外のメンバーが発表者を務めるルールで行われました。
製造業向け 原価可視化アプリ「CostVision AI」
受注型の金属加工製造業では、図面からの見積もりがベテランの勘に依存し、製品ごとの原価や利益率を正確に把握できないという課題があります。このチームは、Geminiのマルチモーダル機能で図面1枚から製造工程・材料費・加工費を自動推計し、利益率をダッシュボード表示するアプリを実装しました。標準単価マスタと計算式をプロンプトに組み込み、ハルシネーションを防ぎながら構造化データを出力させる設計で、チームの試算では見積もり作業時間を大幅に削減できるとしています。担当コンサルタントからは、技術検証の丁寧さと、経営者向け・現場向けで画面を分けたUI設計が評価されました。
クリニック向け 業務効率化・教育アプリ
スタッフ10〜30名規模のクリニックでは、教育担当のベテランスタッフが同じ質問への対応に追われがちです。このチームは、院内マニュアル群をRAG(検索拡張生成)で統合したAIチャットボットに加え、AIによる面談評価機能で新人の習得状況を可視化する仕組みを提案しました。回答には必ずマニュアルの出典を明記し、不明なことには答えない設定を徹底するなど、医療現場で使うことを前提にした信頼性への配慮が特徴です。抽象的な課題に対して自らターゲット像の仮説を立てて絞り込んだ姿勢が評価されました。
社労士向け 労務相談トリアージツール「SL顧問」(優勝)
優勝したのは、社労士事務所の労務相談対応を支援するチームです。着目したのは、電話・LINE・メールで突発的に届く労務相談が社労士の集中力と生産性を削いでいるという現場の負荷でした。チームが引用した調査によれば、一度中断した作業に戻るには23分あまりかかるとされています。
開発したアプリは、AIが相談文を解析し、訴訟・法的リスクの高い案件を赤、注意を要する案件を黄、一般的な問い合わせを青とリスクレベルを3色でトリアージ判定。不足情報の抽出、論点整理、返信ドラフトの自動生成までを支援します。一貫していたのは、「AIに答えを出させる」のではなく「社労士の初動思考を支援する」という設計思想です。審査では、課題と解決策の整合性、チームの役割分担、既存システムがカバーしていない「事前対応・判断業務」の隙間を突いた着眼点が高く評価されました。

寺院向け 日程調整アプリ「住SHOCK」
住職が電話応対や日程管理に忙殺され、本来の職務である供養や修行に専念できない──そんな課題に取り組んだチームは、LINE連携による日程調整の自動化と、AIによる最適な日程配置の提案、自動リマインド機能を実装しました。デジタルによる効率化と、寺院ならではの温かみのある対話のバランスを追求した点、そして自分たちの就活での日程調整の経験をUI設計に反映させたユーザー目線が評価されました。
住宅販売向け Instagram運用支援AI「インスタントDX」
不動産営業がSNS運用と商談を兼務し、集客業務が負担になっているという課題に対し、このチームは過去投稿の数値(保存数、HP遷移数など)をAIが分析し、次の投稿案や画像構成を複数提示するツールを開発しました。特徴的だったのは、担当コンサルタントが保守的な経営者役を演じるロールプレイを通じて価値を再定義したプロセスです。すべてをAI任せにせず、AIは案の提示に留め、最終決定は人間が行うという役割分担を明確にした設計が、売上のボトルネックを正確に特定した構造化とあわせて評価されました。
参加者アンケートより
イベント終了後、参加した学生・社外参加者16名にアンケートを実施しました。
「このイベントを友人・知人に勧める可能性」の平均スコア(学生・社外参加者16名)
「今日の体験を自分の仕事・事業に活かしてみたい」の平均スコア(同16名)
自由記述では、午前の講義から一貫していた「問いを立てる力」に関する気づきが多く寄せられました。
今までの教育では答えを正しく出すことを求められてきたが、AIが台頭してきたこの時代では問いをどう立てるかが求められてくるという点は非常に腑に落ちた。AIを使ったコーディングも、思ったよりも取っ付きやすくハードルが低いとわかった。(学生)
重要なのはAIの機能そのものではなく、どの業務課題を解決するのかを明確にすること。AIに任せる部分と人が判断すべき部分を切り分ける必要がある点が印象に残った。技術理解だけでなく、業務理解と課題設定力が重要だと感じた。(学生)
最初の要件定義で出来上がったアプリが全然ダメで、ちゃんと要件定義したら一発でいいアプリができた。準備が大事なんだと思った。(学生)
企業の問題をヒアリングした際に、全く思ってもいなかった課題があったこと。(学生)
「悪魔の代弁者」として、AIに自分の問いを批判させるという使い方を考えたことがなかった。次から実践しようと思う。(学生)
1日を通して見えたこと──問いを立てる側に回る
限られた時間で要件定義から動くアプリ、プレゼンまでを完遂した5チームに共通していたのは、技術そのものを目的にせず、「誰が、どうハッピーになるか」という顧客の課題を深掘りする姿勢でした。複雑な業界課題を、AIが解ける形に整理・構造化する力。それはまさに、午前の講義で語られた「問いを立てる力」です。
AIが答えを出す時代に、人間の役割は「適切な問いを立てる側」へシフトしていく。中堅・中小企業の経営現場に伴走する船井総研グループが、総合X(トランスフォーメーション)コンサルティンググループとしてAIとどう向き合っているのか──その一端を、参加者とともに体感する1日になりました。
船井総研グループでは、今回のようなハッカソンをはじめ、業界研究・仕事理解につながるイベントを開催しています。
最新の開催情報はマイページにご登録の上、ご確認ください。
記事作成者 山本 翼(Tsubasa Yamamoto)
(株)船井総研ホールディングス タレントディベロップメント部 部長 。2014年に京都大学 総合人間学部を卒業後、新卒で船井総合研究所に入社。入社後は再生エネルギー業界のコンサルティングに従事しチームリーダーを経験。2019年に戦略人事部門へ異動、2022年に船井総研ホールディングスへ転籍し、グループの経営企画、人財採用・育成統括を務める。